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伊藤 涼 氏

abstract

本講演では,KPP型の非線形項を持つ反応拡散方程式の進行波の速度に関する変分問題を考察する.この方程式は,生態学,集団遺伝学,疫学など様々な分野で空間的な伝播を伴う現象を記述する数理モデルとして使われている.本講演では,特に生態学モデル,つまり外来生物が侵入・拡散する現象に焦点をあてる.また,空間次元は1とし,方程式の非線形項の係数は空間変数に関して周期的であるとする.これは,環境が空間周期的に変化することを表している.このような状況では,この方程式は,波面の形状を周期的に変化させながら進む進行波と呼ばれるタイプの解を持つ.非線形項はKPP型,したがって単安定型であるので,この場合には相異なる平均速度の進行波が無数に存在し,それらの進行波の平均の速度のうちで最小のもの(以下,これを「最小速度」と呼ぶ)が存在することが知られている.さらに最近の研究により,この最小速度はコンパクトな台を持つ非負の初期値から出発した解の波面の広がり速度(spreading speed)に一致することがわかっている.生態学モデルの観点からは,波面の広がり速度は外来生物の侵入速度を表すと解釈できる.さらに非線形項がKPP型であるので,この広がり速度(=最小速度)は外来生物の内的自然増加率を係数とするある線形問題の情報だけから完全に決定されることが知られている.(いわゆる“linear determinacy”)

本講演では,内的自然増加率が光量や熱量などのコントロールできる環境パラメータに非線形に依存する場合について考え,環境パラメータの平均値が一定という制約条件の下で,広がり速度を最小化(あるいは最大化)する環境の配置を決定する問題を考察する.環境パラメータの空間的配置を決めるごとに広がり速度が定まるので,広がり速度は一種の(非線形)汎関数とみなすことができる.従って,この汎関数を,与えられた制約条件の下で最小化したり最大化したりする変分問題を考えることができる.しかしこの汎関数は一般には非凸であるので最小化関数が存在しない場合が起こり得ることが予測される.本講演では,解が存在しない場合を含め,汎関数の最小化列の様子をYoung測度の理論を使って解析する手法を紹介し,最小化関数や最大化関数が存在するための必要十分条件について論じる.

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  • 最終更新: 2021/02/11 11:08
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