完全WKB解析はWKB解析, つまり特異摂動型の微分方程式の発散級数解(WKB解) を用いた解 析, をBorel総和法によって数学的に厳密に取り扱う手法である. この手法は2階の線型常微分方程式(1次元定常シュレディンガー方程式)から始 められ, 高 階(3階以上)の線型常微分方程式やパンルヴェ方程式を含む非線型 常微分方程式など主に 常微分方程式に対して拡張されてきた. 常微分方程式 に対する完全WKB解析では, Stokes幾何(変わり点とStokes曲線)と標準形へ の 変換論が重要な役割を果たす. 一方, ここ最近は偏微分方程式系に対する完全 WKB解析が進められている. 偏微分方程式系の場合においてもStokes幾何と標 準形への変換論が重要であることが示さ れているだけでなく, これらは特異 点論と関わりを持つことがわかってきた. 本講演では, 線型常微分方程式に対 する完全WKB解析の基本的事柄を紹介した後に, 偏微 分方程式系に対する完全 WKB解析について特異点論との関係性を重視して述べる.
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